【治療】
外科手術にて幽門部の切除・吻合をし、流出路を確保できれば最善でしたが、実際の手術時では困難であり、また低栄養状態(※)
である事より幽門部はそのままとし、腫瘍に犯されていない部分の胃と小腸とを吻合し、新しい流出路(バイパス)をつくる
手術に変更しました。
※低栄養状態だと治癒が遅れ、吻合部の破綻・漏出が起きるリスクが高くなります。
この場合、腫瘍はそのまま残ってしまうため根治はできず対処療法となりますが、嘔吐や栄養状態、胃の不快感による
体調悪化の改善に期待できます。
併せて手術直後から栄養補給ができるように、小腸に直接栄養を入れるためのチューブを設置しました。(腸瘻チューブ)
吻合術後の24時間は口からの完全絶食としますが、低栄養状態のため早期の栄養補給が必要であり、術後12時間後には
腸瘻チューブより流動食を開始しました。
腸瘻チューブから流動食を開始したものの下痢がひどく、残念ながら有用性が認めらなかったため、太い血管より栄養を入れる
点滴に 変更して体力の回復と時間を稼ぎ、流動食を口より少しずつ補給していく方法をとりました。
幸い、大きな問題は起きず最終的には自ら流動食を食べられるまでに戻りました。
現在自宅では、一度に大量に与えず少量を頻回に与えたり、ミキサーでフードを加工したり、数種類の胃薬を与えていただき
コントロールしています。
【予期せぬトラブル】
胃の治療の傍らで予期せぬトラブルが起きていました。
術後より、原因不明の右後肢の異常(びっこ、爪の脱落、皮膚の炎症、)が認められました。
日に日に悪化し、甲より足先にかけての壊死が明らかとなり,また包帯や術後服の擦れにより、容易に皮膚の壊死が起きることも
ありました。
原因として手術中の体位を維持するための固定具による締め付けが考えられます。
また、長時間の固定に加え体調や基礎疾患(癌)などで血行が悪かったり、微小血栓などが発症しやすい状態であったことが
考えられます。
今回は断脚などの積極的な治療は見送り、エリザベスカラーによる自虐防止と包帯交換により壊死脱落、組織再生を期待する治療を
選択しました。
残念ながら指先を失ってしまい、時間はかかっていますが少しずつ安定化が認められています。
【今回の治療で感じたこと】
長期の入院が必要で、また予期せぬトラブルもあった中で根気強く頑張ってくれたラルフ君の性格の良さにはスタッフ一同
大変関心し驚きました。
治療中には大人しく横になってくれ、一切吠えたり鳴いたりすることなくとても協力してくれ大いに助かりました。
また、飼い主様には治療方法の追加変更や後肢のトラブル等の説明も冷静に受け入れてくださり、ご理解いただき治療を円滑に
進めることができました。
またお仕事でお忙しい中、その後の自宅治療においても上手に包帯交換やフード管理をしていただき大変ありがたく思いました。
病院スタッフが一丸になって治療することは当然のことですが、動物や飼い主様とも良い協力ができたからこそ行えた治療だと
思っています。
1枚目の写真:手術の説明図
2枚目の写真:入院中のラルフ君
3枚目の写真:グルーミングを受けるラルフ君(退院後)