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治療レポートB 2017.5.9

ふったまちゃん スコティッシュホールド 12歳
 
「消化管型リンパ腫の治療」
 
【経緯】
  2週間前より食欲元気が低下し、近医にて治療を受けていたが改善がないとのことでした。
 
【検査・診断】
  腹部の触診で大きく硬い「しこり」(腫瘤)が見つかり、画像検査にて腸の一部に大きな腫瘤ができて腸閉塞を起こしていると
 考えられました。
 そのため食べたものが腸を通過することが出来ず嘔吐や低栄養より体調を崩していました。
 腫瘤は腫瘍の疑いが非常に高いと思われました。
 
【治療・経過その1・手術】
  試験開腹をして、切除・吻合可能なものであれば実施することを提案しました。
 
  点滴などの対処療法に少し改善が認めらたこともあり、また年齢や体力の低下から積極的な手術に対する不安がオーナー様には
  あったようです。
  低栄養による腹水貯留や傷口の治癒不良などのリスク要因も当然ながら存在しましたが、このまま完全な腸閉塞へ進行した時には
  どうする事もできなくなる事や現時点では麻酔・手術が乗り切れるという予想である事にご理解いただき手術を実施しました。
 
  小腸領域に腫瘤があり、傷んで穿孔寸前のとなった所には腹部組織との癒着がありました。
  癒着を切除し、腫瘤の両側に正常な外観の小腸3cmを含め切除し(マージンの確保)、小腸吻合を実施。この時、腹部のリンパ節の
  腫脹も確認されました。
 
  小腸吻合後の24時間は絶食とします。
  元々の体調に加え、開腹手術という大きなストレスがかかったため食欲はなく、貧血も認められましたが、嘔吐や腹部の違和感など
  もなく全身状態は安定していました。
  様子をみながら少量ずつの強制給餌を開始。ふったまちゃんの協力的な性格もあり、計画的に術後治療ができました。
  オーナー様には自宅治療に備え、面会時に強制給餌の様子を見ていただき実際にトレーニングもしていただきました。
 
  術後4日目に排便があり、全身状態も落ち着いていたため退院とし通院による治療へ切り替えました。自宅で過ごす事で
  ふったまちゃんの精神的なストレスを軽減してあげることが大きな目的でした。
  日中は入院治療とし、夜間は自宅にて強制給餌をしていただきました。
 
  状態の悪化はないものの、低栄養による腹水の抜去が必要であったりと不安な日々を送っていた時に、切除した小腸腫瘤の
  病理検査結果が「リンパ腫」と判明しました。
 
【治療その2・抗がん剤】
  手術によって一時的に消化管の開通性が確保されたものの、消化器型リンパ腫という全身性の悪性腫瘍である事が判明しました。
 
  オーナー様には抗がん剤を投与しリンパ腫を抑え、体調を回復させる化学療法を提案いたしました。(寛解を目標とする)
 
  抗がん剤のデメリット(胃腸毒性や骨髄毒性)のこともあり、また体力が低下している状態での抗がん剤に対してオーナー様の
 不安は大変大きく悩まれていましたが、治療を決断され術後9日目に抗がん剤の投与を始めました。
 
  抗がん剤は投与プログラムに従って計画的に進めていきます。
  当初は週に一回のペースで抗がん剤の静脈注射薬を投与していきます。(通院で可能です)
  初回抗がん剤投与3日目から食欲が戻り、腹水も消失し体調の好転が認めらました。
 
 その後も副作用も一切出ることがなく、貧血や低栄養状態も解消し、腹部のリンパ節腫脹も消失したままです。
 今後も抗がん剤は続けリンパ腫を抑え込むことが大切です。
 
1枚目の写真:手術・抗がん剤治療にて元気になったふったまちゃん
2枚目の写真:抗がん剤投与前の血液検査
3枚目の写真:抗がん剤投与中